「桜井さんのことで……」
俺が柚葉の名前を出した時、香山先生の顔が一瞬だけ強張った。
やっぱり香山先生が?
でも……。
「桜井さん?桜井さんがどうかしたんですか?」
すぐに元の顔に戻り、ニコニコ笑顔でそう聞いてきた。
「あ、そう言えば、彼女、怪我は大丈夫だったんですか?」
「えぇ、骨には異常がなく、ただの捻挫でした」
「そう。良かったわ」
「でも、手首を捻挫してるので、2週間はピアノを弾けないみたいですけどね」
「そう……」
その時、店員さんが香山先生が注文したアイスカフェラテを持って来た。
香山先生はそれにシロップを入れて、ストローでクルクルとかき混ぜる。
「あの時、香山先生は桜井さんの側にいましたよね?」
「えっ?あ、えぇ。ちょうど階段を降りてたら桜井さんが階段の下で倒れてたので……」
「……本当、ですか?」
「えっ?」
香山先生が目を見開き俺を見る。
「何が言いたいんですか?もしかして、私が彼女を突き落としたと?」
「もしかして突き落としたんですか?」
「望月先生はどうして、彼女のことになると一生懸命になるんですか?」
「前にも言ったでしょ?それは彼女は僕のクラスの生徒だからですよ」
「本当ですか?」
「えぇ」
「私、見たんですよね〜」
香山先生はそこまで言うと、俺を上目遣いでチラッと見た。
「何を、ですか?」
「望月先生が桜井さんのアパートから出てくるところ」
えっ?
「いつですか?」
「いつだったかな?」
香山先生は意地悪そうな笑みを浮かべて俺を見る。
「昨日、彼女に聞いたら、人違いとか言ってたからそうなのかもしれないですね」
香山先生はそう言ってクスッと笑うと、アイスカフェラテを一口飲んだ。
「桜井さんに、聞いたんですか?」
「えぇ。だって教師と生徒が付き合うなんてダメなことでしょ?だから確かめるためにね」
「そう、ですか……」
なんか、話が変な方向に向かっているな……。
柚葉の家には何回か行ったことある。
人違いだと言っても、それは柚葉がそう言っただけかもしれない。
俺たちの関係がバレないように。



