「桜井さん?」



俺は風呂場の扉を開けた。


膝を抱えて座っていた彼女は顔を上げて俺を見る。


その姿、顔が可愛くて胸がトクンと跳ねた。



「長い時間、ゴメンね」


「いえ……」


「ピアノの練習が途中止めだったね」



俺はそう言ってニッコリ笑った。


でも彼女は俺を見たままで表情は変えない。


「あの、私……」


「ピアノの練習を……」



俺は彼女の言葉を遮ってそう言った。


彼女が何を言おうとしてたのかわかったから。


風呂場にいたとは言え、香山先生がここに来たのはわかってるはず……。


もしかしたら彼女は俺と香山先生が付き合ってると思ってるかもしれない。


桜井柚葉は俺の彼女ではない。


でも誤解されたくなかった。


それに彼女ともう少しだけ一緒にいたいと思ったんだ。


だから俺は彼女を引き止めた。


「ピアノの練習、まだ途中だったから……。だから練習したらいいよ」


「でも……」



彼女はそう呟くように言うと、その場から立ち上がった。



「ホントに、いいんですか?」


「いいよ」



俺はそう言って風呂場から出た。


彼女もそれに続いて出て来る。



「ごゆっくり」



俺は部屋の前まで来て、その場に立ち止まると彼女にそう言ってニッコリ笑った。


彼女は会釈すると、部屋の中に入った。