「どうぞ?」
先生にそう言われて部屋の中に入る。
「わぁ!すごい!」
部屋の中を見た私の口から自然とそんな言葉が出た。
12畳ほどの部屋の真ん中にはグランドピアノが置いてあり、部屋の奥の壁一面の本棚には楽譜がビッシリと埋まっていた。
「今日、練習出来なかったろ?だから、ここ使ったらいいよ。この部屋、防音になってるから好きなだけ弾いて?」
「えっ?」
私は先生を見た。
もしかして、私をここに連れて来た理由って……。
「香山先生から聞いたんだ。一昨日もボードに名前がなかったって……」
「えっ?それで?」
「そう。ピアノ弾きたいんじゃないかと思ってね。だって桜井さんは他の生徒と違ってアパートに一人暮らしで今はピアノのない環境にいるわけだし……」
「先生……」
「でも、これも他の生徒には内緒な」
先生はそう言って、人差し指を唇に当ててクスッと笑った。