「ええと……2年B組は……ここか。」


まだ入学して3週間しか経っていないのに、別校舎の別学年のクラスに行くことができた自分を自分で褒める。

やっぱ冴えてるよな、俺。

真田がデタラメな道を言わなければ、難なくここまで来れたはずだが。

1人はやはり心寂しいものがあるからその面に関しては真田に感謝することにした。


しかし、教室の中を見てみても誰もいなかった。

もう帰ってしまったのだろうか。

少し寂しい気持ちになった。

と、その途端。


「何か用ですか」


頭の上から声が聞こえた。

だ、誰だ!?


「邪魔なので、どいてほしいんですけど」


俺と真田は教室の入り口に2人で立っていた。

そりゃあ邪魔だな。

すいません、と謝りながら振り向くと、そこには今朝会った先輩が立っていた。

不機嫌そうな顔をこちらに向けている。


「あ、あの。黒木先輩ですか?」


恐る恐る聞いてみる。

これで人違いだったら凄く恥ずかしい。

だけど、名札にも黒木って書いてあるし

それ以前に俺はこの人を知っている。


「はい、そうですけど」


やっぱり。

確信が事実に変わったことで俺の心拍数は徐々に数を増していった。

黒木先輩は怪訝な目で俺と真田を見ているようだ。

他学年の校舎に来ているだけでも十分おかしなことだからな……。

怪しまれるのも仕方ない。


「これ、生徒手帳です」


俺が黒木先輩に生徒手帳を渡すと驚いたような顔をして、「ありがとう」と一言だけ告げた。

渡せてよかった。


綺麗な黒髪。

触らなくても艶があってサラサラなのが分かる。

真っ黒な髪とは対象に真っ白な肌。

切れ長の目、長い睫毛。


大好きだった、『レイちゃん』のまま。


「用件はこれだけですか?」


見惚れているといきなり話しかけられ、心臓がドキッとする。


「えっ、はい。すいません」


昔はもっと明るくて優しいイメージだったんだけど


なんだか人が変わったみたいだ。