「…薫、外に行こう。」
「…え?」
「行きたいんだろ?
俺の制服貸すから。
俺は部活のジャージ着るから平気。」
「で、でも…!
叔父さんに怒られるし、迷惑はかけたくない。」
「お前はそれでいいのかよ。
ずっとこのまま、ここで、あの人が造った巣の中で生きていくのかよ?
…外の世界が見たいんだろ。
これが着たかったんだろ!?」
…なに、アツくなってんだ俺。
でも、こんな風に泣きそうな薫を見てられなくて。
涙をこらえる薫を、ほっとけなくて。
「でもっ…!」
「でもじゃねぇだろ!!
〝でも〟は臆病な人間が使う言葉だ。
薫は臆病なのか?
…臆病からは、何も始まらない。
大丈夫。
…俺が、ついてる。」
「…。」
…ああもうじれったいな!
俺は制服を脱ぎ始める。
「ちょっ…香澄っ!」
「男同士なんだから照れることもないだろ。」
「いや、その…」
「誰かの下着姿を見るのは初めてなのか?」
「あ…あ、そう、だけど。
なんか、文句あるのか。」
真っ赤になって、そっぽを向く薫。
なにこの可愛い生き物。
…いやいや、何考えてんだ俺は。
「ほら、着ろよ。」
「あ…」
「俺が脱がして着せないと服も着れないのか?
坊ちゃん。」
「ううっ、うるさいっ!」
おー、怒った。
薫はベッドを降りたが、すぐにしゃがんでしまった。
「どうした?」
「いや…足が震えて、」
なんで震えるんだ?
外に出たいんじゃないのか。
「…怖いんだ。外が。」
「怖い?」
そうか。
外の事は何も知らない。
だから、怖いのか。
「俺がいるから大丈夫だっていったろ。」
「…ほんとに、いいのか?」
「何度も言わせんな。」
薫は、躊躇いつつも俺が脱いだ制服を着ていった。