〖冬夜side〗


あんなに喋るヤツだったとは…

なんか、調子狂う。

「あれぇ、香澄君だー。」

あーさっきの赤髪の…

「久瀬斗真ですー。
覚えてね。」

にっこり笑顔がなんか怖いな。

「あ、の。
アイツ、結構喋るんですか。」

「あー、アイツって坊ちゃま?
坊ちゃまはねー、ホントはあんなに喋んないんだよ?」

は?
あんなにってまさか…

「盗聴器からそのまま聞こえてきちった♪」

「アンタ盗聴器まで扱ってんのかよ…」

「もともとそういう性分なんでね!
だけど、坊ちゃんがあんなに喋ってるの、俺も初めて聞いたも~。

叔父さんともあんなに話さないし。」

血がつながってるのに?
なんで俺には…

「多分、かすみんが珍しかったんじゃない?」

「珍し…ってかすみんゆうな」

「いーじゃんいーじゃん!
だってかすみん高校生でしょ?

だから、坊ちゃん外のこと知りたかったんじゃない?
学校とか、普通の高校生のこと。」

「普通の、高校生?」

「だってそうでしょ?
坊ちゃんだって好きであんなとこにいるわけじゃないしね~。」

「なんでアンタ…久瀬さんにそんな事が分かるんですか。」

「ホラ俺の趣味的にさ♪」

…盗撮、盗聴か。

「あの子、かわいそうな子なんだよね。
本当は外に出たいのに、シュジンに気ぃ使って部屋の中にずっといるし。

そりゃそうだよね。
自分を拾ってくれた人だから。」

「それ、どういう…」

「両親が他界したら、坊ちゃんは棄てられるはずだったんだよ。

だって会社の重荷にしかならないんだし、当然でしょ?

そこを、シュジンが拾ったってわけ。
だから坊ちゃんもシュジンには頭上がんないだろーねー。」

そんな事情があったのか…。

「ようするに坊ちゃんは不器用なだけなんだよ。

ホントは普通が知りたいだけなんだ。

だからさー、仲良くしてやってよ、かーすみん♪」

「だからかすみんて…!」

「ハイハイ俺は仕事に戻りまーす。」

あのお調子者め。


…俺は、

『お前、よくこんなとこにいられるよな。』

『…は?』

『何にもないだろ、この部屋。
いつもこの景色で、よく気がおかしくならないな。』

…俺は、何を言ってんだ。



『…外は、楽しいか?』



好きでこんな場所にいるわけないのに。



バンッ


今さっき出てきた扉を強く押し開ける。

ベッドの上でびっくりしている薫の方に向かい、俺は言った。