「…香澄は、高校生なのか?」

「薫と同い年。」

「じゃあ、高校3年生か…!

受験勉強は大変なのか?

それとも就職するのか?」

「…いや、就職する…」

「どうして?
大学に進んでもっと勉強すればいいのに。」

「父さんが失業して、俺が働かなきゃ生活できない…けど、」

「けど?」

「お前よくしゃべるな…。」

「…っ、そ、うか?」

自分でも不思議だ。

なぜこんなにペラペラと質問が出るのだろうか。


「こんなにしゃべるヤツだとは思わなかった。

なんか、想像してたのと違う…。」

「香澄が僕をどんな人だと思っていたのか興味があるな。」

「あー…お前もそういうイヤミ、言うんだな。」

「言うだろ、イヤミの一つくらい。」

コイツは僕をなんだと思っていたんだ。

「お前、よくこんなとこにいられるよな。」

「…は?」

「何にもないだろ、この部屋。
いつもこの景色で、よく気がおかしくならないな。」

好きでいるわけじゃない。
でも、それをコイツに言ったところで何かが変わるわけではない。

「…外は、楽しいか?」

「ああ?
楽しい…つーか、ここよりは退屈しないと思うけど。」

僕は外に出てはいけない。
おじさんがそういった。

叔父さんは、僕を引き取ってくれた人で。
だから、言うことも聞かないといけなくて。

迷惑は、かけたくない。
でもどうしても、僕は外への憧れを棄てきれない。

外に出たい。

この檻から、解放されたい。


「…学校は、どんなところなんだ?」

「人がいっぱいいて、一つの部屋の中に何十人かで授業を受ける。
教科ごとに先生がかわって、おもしろい先生もいれば眠くなる先生もいる。」

「…楽しそう、だな。」

授業中に寝て怒られて。
廊下で水の入ったバケツ持ちながら立たされてたり、するのかな。

「何にも楽しくない。
つまらないところだ、あんな場所。」

「…香澄、お前友達いないだろ。」

「しっ…つれいな、友達くらいいるわ!」

「図星か?」

「そんなわけ…!
ッハァ…もういい、疲れた。」

「え…」

「もう帰る。」

香澄が後ろを向いたとき。

「まっ…待って。」

自然と、香澄の制服の裾を掴んでいた。

「…離せよ。」

香澄は、無理矢理僕の手をどけていってしまった。


「もっと話が、聞きたいのに。」