〖薫side〗



ピーチチッ…


鳥のさえずりが聞こえる。

「もう、朝か…」


時計を見ると、午後2時。

昼だった。

今日は土曜日か。


…ん?
鳥のさえずりって…

「窓が、開いている。」

どうして、なぜ?

僕は開けていないのに、いったい誰が…


「────…、花の、香り」

久々の香りが、僕の涙を誘う。

なぜなら、母さんの香りだから。


バンッ


急に開く扉。

誰かと思えば、昨日の失礼な使用人だった。

しかも、土まみれ。


「汚いぞ使用人風情が!

僕の部屋にはいってくるな!」

「坊ちゃんは黙ってな。」

「はぁ?
なにを───…」

「黙って俺の庭を見ろ!」

シャッ

勢いよくカーテンを開ける使用人。


「だから見たくないって…」


目を逸らしても、香りが僕を誘惑する。

庭へと、僕を誘う。


「これは、」

飾らない、ただ純粋に咲き、力強く生きる花たち。

母様の、庭。


「かあ、さま…」


薫、おいで。

母様が、僕を呼んだ気がして。


気が付けば、僕は泣いていた。

そんな僕を、ただ満足気に見ている庭師。


「どうだ、俺の庭は。」

庭師が不意に、口を開いた。

ドヤ顔もいいとこだ。

「…お前、名前は?」

「コイツ…最初に名乗ったのに聞いてないとか、ありえねぇ。

……香澄、冬夜だよ。」

「カスミ、トウヤ…。」

まるで、母様と同じ庭。

この庭を造れる者がいるなんて…!


「香澄、僕は君の庭が好きだ。

これからも、手入れを頼む。」

「……。」


頬を紅潮させながらほほえむと、香澄は黙った。

「…香澄?」

「ああ、いや。

素直なお坊ちゃんだなーと思ってさ。」

素直…?

「そうか?

ていうか、お坊ちゃんて言うな!」

「じゃあなんて呼べばいいんだよ。」

「…カオル、と。

そう呼べ。」

「分かった薫。」


何故だろう。

あんなに呼び捨てが嫌だったのに、香澄に言われても嫌じゃない。