あれ、身体が浮いて…
ドンッ
「…ッ」
身体が軽くなったと思えば、次の瞬間地面に叩きつけられていた。
いっ…て
「ゲホッ…」
俺、体育会系じゃないんですけど。
「よーし、このままヨッシーんとこ行くか!」
ヨッシー…?
あの緑の物体がここに?
…いやいや、いくらマリブラ好きでもリアルヨッシーはいるはずない。
だってアイツ恐竜だし。
もしかして、巨大生物がその“ヨッシー”で、それに俺を喰わせるとかそういう…
「待て待てはやまるな!」
「んー?」
首根っこを捕まれ、引きずられながらもがく。
結局俺の首が閉まるだけだった。
きっと俺はこのまま、あのリンゴのようにヨッシーの舌に絡め取られるんだろう。
「あ、いたいた。
ヨッシー!」
ああどんな怪物が待っているのか…。
…て。
「さっきの、爺さん?」
「吉野で御座います、香澄君。」
「この人が執事長のヨッシーです。」
にこやかに説明してらっしゃるけど、赤毛の方。
なるほど、ヨシノで、ヨッシーね…
「ハァ…」
俺がため息を付くと、赤毛は吉野さんに向かって俺をつきだした。
「コイツ館内をうろついてましたー。」
「だから俺は…!」
「久瀬君、彼は新人の庭師ですよ。」
そうですよ。
それを俺は言おうとしたのに。
「はぁ?
この高校生のガキが?!」
「そうです。
旦那様の御命令で、彼を雇いました。」
「ダンナ様ねー…」
なんか、胡散臭そうに社長を旦那様と呼んでるけど、お前の方がよっぽど胡散臭いからな。
「ごめんね香澄君!
俺勘違いしてたみたーい。
いちおー執事の久瀬 斗真(クゼ トウマ)です。
趣味は盗撮です♪」
「久瀬君、いい加減にして下さいね?」
吉野さん…執事長の圧がハンパない。
何者なんだこの人…。
…あ、そうだ。
「花の注文票、造っておいたんで数字通りにお願いします。」
「承知しました、では拝見…」
手帳を渡した瞬間、ピシッと吉野さんが動かなくなった。
「アレ、ヨッシーどーした…」
横にいた久瀬さんは、手帳を覗いて笑いをこらえている。
「…なにか?」
「なんだっけ、香澄君?
字、きったなあ!」
…すげえウザい。
そんなに汚いかな。
「ヨッシーにも読めない字があるんだ!
あはは、ヤバい。
このレベルはヤバい!wwwwww」
うるさいなー…
「すみません、書き写すので復唱してもらえませんか?」
「…わかりました。」
復唱し終わり、吉野さんと久瀬さんにお願いして、俺は庭へ向かう。
かなり迷ったが、さっきよりは慣れた。
戻って土作りをしようと座ったが。
「これは…」
よほど前の手入れが良かったのか、土が良質のまま維持されている。
きっと、アイツの母さんとやらが施したんだろう。
「凄い…
土は、何一つ手を着ける必要がない。
枯れた花を抜いて、落ちた葉を掃除するだけだなんて…」
金持ち妻の癖に、アッパレとしか言いようがない。
「…いつまでも呆けていられない。
さて、掃除をしなくては。」
そうして俺は、庭を綺麗な状態にした後、用意された自分の部屋に戻り、シャワーを浴びて寝た。
部屋にシャワーがついてるなんて、ホテルかよ。
そうツッコみたくもなったが、我慢した。


