所詮ボンボンはボンボンだ。
甘ったれて、弱い自分から逃げる。
そんなヤツのために庭を造るなんて反吐が出る。
が、こっちもそんな事言ってられない。
父さんの就職先が見つかるまででも、生活費を稼がないと。
…それにしても、あの金持ち息子、何で泣いてたんだ?
見間違い?
…あんなひねくれ者のマザコンが泣くわけないか。
「こちらが亡き奥様のお庭でございます。
…それではよろしくお願い致します、香澄君。
なにかあればわたくしに言ってくださいね。」
そう言って、執事の爺さんは仕事に戻っていった。
「う…わ」
予想以上に酷いな、これは。
でも、これだけ面積があるとやりがいも出てくる。
「よし…
じゃあまず、ホンアマリリスを50本と、金魚草100本、それとアルメリアを…」
次々と花を手帳に書き出していく。
広すぎて花の本数の感覚があまり分からないが、まあ大体こんなものだろう。
…いや、花の種類を少し抑えて量を増やすとしたら、もっと欲しいな。
「…できた。」
そうして試行錯誤した結果、1時間もかかってしまったが、なんとか花の注文票は完成した。
これを爺さんに出して…
…あの窓か。
ふと目にとまったのは、あのクソガキの部屋らしき窓。
カーテンが引かれている。
「…チッ」
俺は窓に向かって舌打ちを1つしてから、爺さんを探した。
30分後。
「どーなってんの、この屋敷。」
広すぎて全然見つからない、あの爺さん。
参ったな、早く渡して庭の土作りしようと思ったのに。
「ねー、さっきから見てたんだけどさ。
君もしかして不審者?」
頭をガジガジと掻いたとき、後ろからかけられた声。
くるりと振り向くと、赤髪を肩まで伸ばした、黒メガネの男が立っていた。
…いやいや、はい?
俺が不審者?
そんなわけないだろ。
逆にコイツの方が怪しいんじゃ…
ああでも執事の服着てるし、コイツも執事なのか?
着方がだらしないけど。
「俺、不審者じゃないです。」
「そっか、そうだよね!」
「はい。」
「不審者が自分を不審者って名乗る訳ないもんね!」
「はい。…え?」
いやだから違うって。
そう言おうとした時。
フワッ


