〖薫side〗



「…」


今日も、この部屋から外を見ている。

窓越しに見える庭は、母が生前大切に育てた庭。


今は荒れ放題で、数年前の美しさが嘘のようだ。


華宮 薫ーハナミヤ カオルー(18)

僕は華宮家の最年少男児。

華宮家は、代々“ Fragrant”という会社の社長を勤めている。

僕の母の代、つまり現在は、母の兄さんである華宮 達朗ーハナミヤ タツロウーさんが経営者だ。

しかし、もう次の代はいない。

僕は一人息子で、達朗叔父さんも独身。

だから、養子をとる他ないんだ。


僕は会社を継げないから。


理由はちゃんとしたものがある。

それは僕は生まれつき病気で、体が弱いということ。

心臓に問題があると言われたけど、詳しいことは知らない。

庭の手入れなんてできないし、外に出ることも許されない。


家庭教師が毎日来てくれるから、勉強は人並みにできる。

まあその知識を生かす事なく一生を終えるであろう僕には必要ない事だけどね。

こんないつ死ぬかも分からないヤツに、会社は経営できない。

だから僕は、必要ない。


「母様…」

窓を指でなぞりながら、荒れ果てた庭をみる。

涙が落ちるのは、きっと彼らに水をあげたいからだろう。


コンコン


「失礼します、薫さ…」

「…っ、」


振り返ると、執事のじいと、見かけない顔の男が立っていた。

知らない男は大人っぽい顔立ちで、黒い服を着ていた。

これが制服…なのか?

初めて見たな。

少しの感動に浸りながらも、慌てて涙を拭き、窓を見ながら返事をする。


「なんだ…!
僕に何か用か。
その男は誰だ、僕にそんな知り合いは…!」

「…薫様、新しく入った庭師の香澄でございます。」

「庭師…?
母様の庭を、コイツがいじるのか?!

ふざけるな、母様の庭をさわっていいのは僕だけ…ゲホッ、ゴホゴホッ…」

「薫様…!
お体に障ります…どうか、ご了承下さいませ。」

「嫌だ…!」

「アンタが庭の手入れをしないから俺が呼ばれたんだろ。」

庭師が初めて口を開いた。

「香澄君、薫様に向かって…!」

「僕はしたくてもできないんだ!
大体使用人のくせに僕に口答えするな…!

お前の庭なんて、見たくない。」

そう言った途端、庭師はつかつかと別途の近くまで歩いてきて、急に僕の胸ぐらを掴んだ。

「そのセリフは俺の庭を見てから言え」

なんだ、コイツ…

なんでこんなに怖い顔してるんだよ、さっきまで無表情だったくせに。


「香澄君…!
薫様を離してください、薫様のお体に障ります、どうかお怒りを納めて…」
           、、、、、
「御世話になります、お坊ちゃま」

イヤミをたっぷり含ませたセリフを残して、庭師は部屋を出ていった。


~~~~~~なんて腹の立つ使用人だ!

絶っっっ対にアイツの庭なんて見てやるもんか!


僕はカーテンを乱暴に閉め、布団をかぶった。

そのせいで、少し視界が暗くなった。