音がなった瞬間、男のほうが先に動き出した。


…逆に言うと瑞稀は一歩も動かなかったのだ、お前から来てくれ。そう言うかのように。


男は駆けながら腕に力を入れ、瑞稀の顔に当たる範囲内で前に突き出す。


だが、瑞稀は避ける。そして、そのまま腹を殴る。属に言うカウンターというやつだ。


殴った直後…いや、その殴りをかわされた直後は人間、隙が出る。


助走をつけていたのなら尚更だ。ちょっと体を横に動かにして腕を元居た場所…相手が来る場所に突き出しておけば相手に当たるのだ。


人間というのは、いきなりピタリとは止まれない。…と言っても、車も動物もそうだが。


男が結構速く走っていたためか、そのまま手が鳩尾に入る。


「っ…かは!」


瑞稀がもっと力を込めようとした時、相手が後ろに飛び退く。


「いっつ…!」

「もう少し我慢してれば楽にいけたのですが。」

「怖いこと言うんじゃねえっつぅの!」


少し顔を歪ませながらも、男はまたとび出す。

瑞稀の腹に一発入れてやろうと思ったのか、また腕に力を入れる。

だが、瑞稀はまたもや避けて、横から相手に蹴りを入れる。

そして、倒れた男の脚を踏む。ジリジリと力一杯に。
 

「…流石に同じ手を使うとは思わないと思ってたんですけど…。
もう降参したらどうですか?正直言って飽きました。」

「チッ…!使うとは思わない、そう思うと思ったから使ったんだよ!」

「…そうですか。あの、もう帰っていいですか?」

「帰るなら俺を倒してからにしやがれ!」

「眠いんですけど。…倒せというなら、今からこの脚を折ればいいだけですけど…面倒です。」

「……チッ…しゃあねぇ。帰れよ。寝ぼけた奴と戦っても面白くねぇしな。
お前、何校だ?」

「案外優しいところあるんですね。不良なのに、意外です。学校は…秘密です。」

「あ?うっせえよ。不良だからって舐めんな。って、なんで秘密なんだよ。」

「押しかけてきたら嫌ですし。」

「…そうかよ。なら、また今度お前とあった時に決着をつける。いいな。」

「……会えたら、ですよ。」


そう、一言残し瑞稀は立ち去った。