「やっぱりって…よく分かったな。」


春は驚愕したような顔で水樹を見る。


「あ、いやー…その、声覚えるのは得意だから。」


あははと、苦笑しながら答える。


―――…声って言うより雰囲気とかだけど…。まぁ、こっちのほうが怪しまれにくい…かな。


「ふーん…?そうなのか。」

「おい、何ごちゃごちゃ話してやがる。」


と、そこで渡辺と一緒にいる男の一人…鈴木が間に割って入ってきた。



「えっと…何って…恩人に礼を言うのは可笑しい、ですか?」

「そうそう、それが知り合いなら話が少しぐらい長くなるのは普通だと思うけど。」

「そういう意味じゃなくてなぁ…。お前ら、逃げ道も無いのにそんなに悠長に話してるものだからよ。」



逃げ道も無いのに……という言葉に反応して水樹と春は反射的にトイレの出入口を見る。

そこには、男二人が仁王立ちで立っていた。



「あちゃー…何時の間に。」

「僕達が、話してる間…ですね。」


水樹は出入口だけでは無く、窓も確認する。

そっちはもぬけの殻だ。だが、ここは2階のため出ることは出来ないだろう…怪我をしてでも出たいのなら別だが。

それにこの学校のトイレは窓が固定されており、最低限の換気の分しか開けられない。

その為、必然的に目の前にいる男たちを倒すか何かしなければいけないのだが……。


「……あれ、そういえば…。」

「ん?どうした水樹。」

「な、何で誰も来ないんですか?ここ、トイレですよ?」


先程から、用を足しにくる生徒が誰もいない。水樹が疑問を覚えるのも普通だろう。