その後、ホースを蛇口に取付け、個室にホースを垂らす。と言っても、バレないように最低限だが。


「よし、行くぞー。」


渡辺は蛇口をひねった。







水樹が壁に凭れかかりながら携帯をいじっていると、頭に水が物凄い勢いでかかった。


「っ!?だ、誰!?」


水樹が慌てて上を見ると、ホースから水が出ていることがすぐにわかった。


「や、やめっ…ケホッ、て、くだ……い!」


上を向いた時に、口の中に水が入ってしまったのか、むせてしまいちゃんとした言葉が出てこない。

ホースなのだから、払えばすぐに水がかかってくるのを止められるのだが、混乱し過ぎた水樹にはその考えが浮かんでこない。


「ブハッ、やめってくだいだってよ!」

「やめるわけ無いじゃん!」

「クッソ笑えるわ。」


渡辺が喋ったことにより、水樹にも誰がやったのかも理解する。


―――ああ、失敗した。イヤホンつけるんじゃなかった…。


そう、普通なら聞こえていたであろう会話も、大音量で音楽を聴いていたため聞こえていなかったのだ。だからこそ、とっさの判断がつかなかった。


「…離れなきゃ。」


水樹はそう思い、扉を開けようとする。が、掃除用具入れが邪魔で開かない。

これが倒れてしまったら、向こう側の壁にぶつかり、本当にでられなくなってしまう。

少しばかり、混乱が解けてきた水樹は水が当たらない位置に移動し、呼吸を安定させる。


「っはぁ………。」


溜息がつけるほどに落ち着いた水樹が「どうしようか。」と、考えている時だ。


「あっれぇ?可笑しいなぁ…こんな所に掃除用具入れなんて無かった筈なんだけど。邪魔だな…。」


朝に聞いた声が聞こえてきたのだった。

と言っても、喋り方は何となく、違う気がしたが。