「僕は、苑園慈音(えんぞの しおん)。君は月川湖歌君だよね。」
「お前に自己紹介した覚えはないんだけど」
「君、有名だよ。イケメンで有名。チョーモテてるよね、羨ましいな〜」
羨ましいな、と言っているが全然羨ましそうに見えない。
そいつは愛想笑いを浮かべている。
「お前も顔はいいよ、自信持ってあっち行け」
しっしっ、と手を振る。
「えーひどいー。あ、そうだ。どうでもいいけどあと五分で最終下校時間だよ、それ片さなくて大丈夫?」
それ、と俺の破った紙切れを指差す。
「え」
もうこんな時間かよ。
片ずけなければ。
俺が紙切れを拾い集めようと腰を屈めて手を伸ばす。
俺の手が紙に触れる前に、紙切れをひょいと拾ったそいつが笑った。
こいつは何がしたいのよ。
