「…………捺芽(ナツメ)っ!!!」
午前中の授業が終わって、
少し離れた席に座る彼に声をかける。
私の声に反応した彼は、
ゆっくり立ち上がって歩いてくる。
「屋上行こう」
彼が頷いたのを確認して教室を出る。
「………え、ちょっ、捺芽?」
教室を出た瞬間、私の手は彼の手に包まれた。
学校ではあんまり手を繋がないのに。
『…………璃唯(リイ)』
綺麗な弧を描いて紡がれた私の名前。
彼の声は聞こえない。
聞こえるのは僅かな吐息だけ。
口の動きで分かるようになった私には、
簡単な会話なら成立する。
柔らかく、優しく、私の名前を呼ぶ。
彼の無音の声に私は囚われる。