それでもふたりのうしろ姿から片時も目を離せずに追ってしまいながら、わたしはいつの間にか、カーディガンの裾を力いっぱい握ってしまっていた。

と、そこへ、また声が聞こえてくる。


「びっくりしたよー、百井が美術室に顔出すなんて。まだ退部してなかったんだね」

「そこはほら、実結が持田に頼み込んで、なんとか退部だけは免れたんじゃなかったっけ?」

「あ、そっか。そうだったね。でも実結、自分の絵も壊されたのに、よく百井をかばえたよね。やっぱ中学が一緒だったからなのかな。あのときの実結を見て、実はちょっと感動してたんだよね、私」

「えー? でもそれって、実結の点数稼ぎだったんじゃない? ほら、あの子、持田のこと好きだし」

「そっか。でも持田、もうすぐ結婚でしょ? そしたら実結はどうするつもりなんだろうね」


口々にそんな憶測を飛び交わしながら現れたのは、会話の内容や実結先輩を名前で呼んでいることから察すると、美術部の3年生なのだろうことがわかった。

だけど、そのほかは、思わず自分の耳を疑うことばかりだった。


だって、百井くんが実結先輩の絵を壊したって?

――そんなバカな。