美術室に差し込む光がオレンジ、紫、藍色へ刻一刻と変化を見せる中で筆をとる彼の姿は、彼自身が絵画になったかのような錯覚を覚えるほどに幻想的だから。


指でファインダーを作ってのぞき込む。

うん、とってもいい構図。

そうして満足したわたしは、カシャ、とシャッターを切る真似だけをすると、すぐに指を解いて百井くんの横顔を眺めることに徹することにした。


写真はまた撮るようになったけれど、人物写真だけは、実はあんまり好きじゃない。

それは、まぎれもなく、あのバカ親父のせいだ。

父のようにミスをしてしまったらどうしようという不安な気持ちが、わたしが人物写真から遠ざかっている絶対的かつ唯一の理由だ。


でも不思議なことに、百井くんの写真だけはちゃんとしたカメラで、ちゃんとシャッターを切って撮りたいと思い始めているわたしがいる。

いくら真似だけとはいえ、人に向けて指でファインダーを作るなんて、ここ何年もしていなかったのに、本当にどうしてだろう。

一途に想いを寄せる人がいる百井くんの写真を撮ったところで、結局はわたしの自己満足でしかないし、撮られた百井くんだって、けっこうな確率で迷惑を被るような気がするのだけど……。