このある意味特殊なモデルの仕事が、彼が思いを寄せるスケッチブックの彼女の代わりだということは、最初からわかっている。
百井くんはきっと〝わたし〟をモデルにして絵を描くことはないんだろうとも思う。
でもわたしは、夢中で絵を描く百井くんの姿を見るのが、たまらなく好きだ。
だからわたしは、真剣に絵と向き合う百井くんを見るとき、自然と幸せな気分になれる。
「この写真、あとで現像しよ」
今日の一枚である百井くんが褒めてくれた写真を見つめながら、ぽつりと呟く。
当然、百井くんの耳には入っていない。
……うん、いい感じに集中してる。
そこでわたしは、邪魔にならないように気をつけながらそっと側を離れて窓辺に向かうと、百井くんの表情がよく見える位置――彼からすると斜め前方の壁に背中を預けて座ることにした。
長机の上が定位置なら、特等席はここだ。
晴れた日はポカポカ暖かいし、窓を開ければ、伸び放題の木のおかげで吹き込む風が柔らかくなって美術室の中の空気を新鮮なものに入れ替えてくれる。
そしてなにより、この位置からだと百井くんの表情が本当によく見えて、いつまでも眺めていられるくらいだ。


