けれど、面と向かって不満を口にできるほど、わたしは命知らずじゃない。

絵に感動したのは本当なので、百井くんの話し方を『マジ? 嘘じゃない?』と脳内で質問系に変換して答えながら、何度も首を縦に振って肯定の意を表す。

すると、仏頂面か、怒った顔か、ガンを飛ばしているかの3つしかほとんど見たことのない百井くんの表情が、ほんの少しだけ緩む。


これはもしや、嬉しがってる……?

もしそうだとするなら、すっごくわかりにくいんだけど。

実際には口が裂けても言えないけれど、なんというか、これでは学校一の不良が形無しだ。

そんなことを思っている間にも、なぜか百井くんの質問は続く兆候を見せる。


「どんなとこ」

「片想いなとこ……です」

「百ノ瀬もいるの」

「えーと、好きな人ですか? いやいや、わたしは。恋すらしたことありません」

「てかなんで敬語」

「元からなんで。気にしないで、です」


そうして下手くそな言葉のキャッチボールをしているうち、なんとなく百井くんに対する恐怖心がほんの少しだけ和らいできたように感じるのが不思議だ。

話せば案外、普通……っぽい?