わたしは、はっと我に返ると。


「モデルって、ヌードじゃないでしょうね」

「ヌードなんて描けるか。恥ずかしい」

「……じゃあ、なってあげてもいいけど?」


と、苦し紛れの可愛くない返事をした。

それを聞くと、百井くんは「ニナらしい生意気な返事だな」と悪態をついたけれど、その顔はどこか楽しそうで、つられてわたしもなんだか楽しくなってくる。

ヌードはさすがに抵抗感が半端ないけれど、それでもわたしがモデルをすることで少しでも百井くんの役に立てるなら。

明日からもわたしは、百井くんと〝ここ〟で放課後の時間を過ごそうと思う。


百井くんと関わりたい理由――いまだ〝不明〟。

でも今は、教室でいつも一匹狼な百井くんが、わたしと同じようにこれからもわたしと関わろうとしてくれている気持ちが、ただただ素直にうれしい。


「じゃあ、ちょっと亜湖のところの洗濯機貸してもらってくるね」

「おう」


カーテンを意気揚々と胸の前に抱いて旧校舎の廊下を進みながら、にやける顔を隠しきれずについ笑ってしまうわたしの胸は、長年蓄積されたカーテンの埃っぽい匂いと空気を吸い込んでも、ふわふわと軽かった。