それでも、百井くんが一生懸命になにかを伝えようとしているのが空気でわかって、わたしはカーテンからそろり顔を上げて彼の言葉の続きを待った。
けれど、わたしの目を見た百井くんは、なぜかふいに視線をそらし、かと思いきや、わたしの頭を三本指で押さえて首を左方向にぐいっと回すと、そこで固定するために押さえはじめた。
いきなりなにをするのと思って当然の行動に、わたしは百井くんの手を取り、ふがふが言いながら頭から手をどけてもらおうと押しまくる。
でも当然、男の子の力に適うわけもなく、そうこうしていると、今まで押し黙っていた百井くんが言いにくそうにボソリと声を空気に乗せた。
「美術室。オレと掃除。もうすぐ終わりだと思ったから妙に意地張ってた……わけないか」
その瞬間、ぱっと百井くんの手が離れた。
どうやら彼の意味不明な行為の数々は、これを言うのが恥ずかしくて顔を見られたくないから取っていたものだったらしい。
でも、わたしにも、顔の向きを元に戻せない理由ができてしまったらしい。
「……どうしよ、顔、向けらんない」
「ニナ?」
「ごめん、なんか勝手に泣けてきちゃって。今、絶対ブサイクだから、あんま見ないで……」


