初恋パレット。~キミとわたしの恋の色~

 
「げふっ……!」

「だから落ちるって言った」

「ご、ごめん……」


どうやらわたしは、まだ生きていたらしい。


「ちょ、ニナ、苦しい」


耳のすぐ近くで百井くんのくぐもった声が聞こえて、それとは反対に、きつくぎゅーっと抱きしめられているような感覚が背中にある。

落ちるときにつぶった目をゆっくりと開けていくと、まず見えたのは百井くんの耳――ピアス穴の開いていないツルツルの耳たぶだった。

次に、右頬にプニプニとした感触を覚えた。

それはわたしの頬にくっ付いていて、温かな温度がそこからじわりと体に伝ってくる。

でも、少しだけくすぐったさもあって、わたしは動かしてみると自由だった手を床に付き、身じろぎをするように百井くんにしっかりと抱きかかえられている体をわずかに起こした。

起きあがる気配を感じたらしい百井くんも、わたしが動くのに合わせて腕の力を緩めていく。

と。


「ん? なんで床しか見えないの?」


てっきり近くに百井くんの顔があるのかと思いきや、見えたのは昔の絵の具で汚れた床。

まさか百井くんの首が取れてしまったわけでもあるまいし、かといって超至近距離に顔があっても困るけれど、それでも、百井くんの顔が確認できないことが不思議で、不安でたまらなくなった。