学校近くの画材店の袋をぶら下げて美術室に入ってきた彼は、心なしか楽しそうな表情を浮かべながら、わたしの目の前にそれを広げて見せてくれる。

今日のわたしたちは、まず百井くんが美術室の鍵を開けて画材店へ向かい、あとから来たわたしが中で待っているという段取りを組んでいた。

ここ数日、百井くんは画材店のカタログを眺めながら買うものを絞り込んでいたようで、今日の段取りを前日の掃除のときに相談されていたわたしは、「うん、いいよー」と二つ返事で了承していた。


わたしの存在に慣れたのか、それとも、やっと白状する気になったのか。美術部員であることと絵を描いていることを教えてもらったのは、つい最近のことだ。

ただ、ひとつ残念なのは、どんな絵を……というか、絶対にあのスケッチブックに描いてあるような水彩画だろうけれど、絵を描く百井くんの姿は見られないだろうな、ということだった。


百井くんはどういうふうに絵を描くんだろう。

どんな筆づかいをして、そこにどんな色を付けるんだろう。

着々と美術室の中が片付いていき、キャンバスやイーゼルなど、ひとつずつ絵を描く準備が整っていくにつれて純粋に興味が沸いてきていたけれど、残念ながらそれは、興味が沸いたままで終わりそうな気配だ。