亜湖はなにも、百井くんがきらいで、わたしに関わらないほうがいいと言っているわけじゃない。

わたしのことを本気で心配してくれているから……。

なにも言えずに黙っていると、亜湖は「あ、もう授業始まるね」と言って席を立った。

壁の時計に目を向けると、予鈴の30秒前。

亜湖が自分の席に戻って授業の教科書を出している間に、おそらく予鈴が鳴るだろう。


百井くんは、授業開始ギリギリまでヘッドホンを外すつもりはないのか、いまだに起きる様子はなく、むしろ指一本さえ動かす気配はない。

仕方なしに、わたしも教科書の準備をする。

午後一の授業は数学。

どうして一番眠たくなる頃にあえて頭をフルに使わなきゃいけない数学の授業をぶっ込むんだと心で文句を言いつつ、わたしは亜湖から受けた忠告や、その裏に隠された心配する温かな気持ちに頭を巡らせ、頬杖をついた。


けれど、その数学の時間、思いもよらないものが、またわたしの脳天を直撃した。

なにかが軽く当たったような感覚があり、黒板の公式から自分の机に目を落とす。


「ん? 紙クズ……?」


見ると開いたノートの真ん中にくしゃくしゃに丸められた五百円玉大の紙が落ちていて、しばし首をかしげる。