怒らせるようなことを言ったのはわかるんだけど、どこら辺なのかがさっぱりだ……。
「ったく、あんたって子は」
「わかってるよ、ごめん」
「いや、そうじゃなくて、いったいなにを言って怒らせたわけ? そもそも、昨日まで百井のことを怖がってたくせに、今日になって急に忠犬よろしく懐いてる、その意味はなんなの?」
「へ?」
またチクチクと小言を言われるのかと思って先に謝れば、けれど亜湖は、面倒くさそうな顔をしつつも訳を聞いてくれるらしい。
顔を上げて目をしばたかせると、亜湖は足を組み替え、机の空いているスペースに肘を付く。
話してみな、という無言のまなざしが心強い。
優等生の亜湖なら、わたしにはさっぱりの百井くんの気持ちを推測できるかもしれない。
そう思ったら、気分がちょっと楽になった。
「――と、いうわけなんですけど……」
ということで、わたしはさっそく亜湖にわけを話し、彼女の考えをご教授願うことにした。
スケッチブックのことや美術室の掃除を手伝うことになった一連のきっかけについては、おそらく百井くんは他の人には知られたくないことだと思ったので、適当に「成り行きで」と誤魔化した。


