亜湖に言われたとおり、美術室の帰りに職員室に寄って池のんへ掃除の報告を済ませ、教室に戻ると、百井くんはあのヘッドホンをしっかりと耳に装着し、机に突っ伏して寝ていた。
わたしも席について頬杖をつく。
正直、気分は全然振るわない。
「おかえり、仁菜」
と、わたしが戻ったことに気づいた亜湖が、テニス部の女子で固まって話していた輪から抜け、さっそく席までやって来てくれた。
亜湖はわたしの前の席の子の椅子を拝借して座ると、テニスで鍛えられた脚線美が眩しい足を組む。
それを合図にして、わたしは彼女に泣きつく。
「亜湖ー、わたし、やっちゃったよー」
「なにを?」
「……なんか、怒らせた」
ボソボソと言ったそれを聞くと、亜湖はこれみよがしに盛大なため息を吐き出す。
「ほーら、だから言わんこっちゃない」
「そうなんだけどさぁ……」
あたしの忠告を無視したからだと言わんばかりのため息は、けれどそのとおりなので反論の余地もなく、わたしも小さく息をつくしかない。
本気で寝ているのか、寝たふりなのか、ぴくりとも動かない百井くんをちらりとうかがい、わたしは机にカエルのようにぺったりと張り付く。


