そこまでして頑なに否定しなくても誰にもバラしたりしないのに。
というか、逆にあのスケッチブックは自分のものだと認めていることに、果たして目の前のこの人は気づいているのだろうか。
いや、気づいてないな、こりゃ。
そういうところが、ちょっと可愛らしい。
「てかニナ、なにしに来た」
ほら、あからさまに不機嫌な顔を作って強引に話題を変える。
これもまた、可愛らしいけど。
「あ、百井くんと話がしたくて」
「なら、もう終わった。木崎が言ったことは正しい。浮きたくなかったら早く戻れ」
「そんなっ」
けれど、百井くんが発した一言は、思ってもいないものだった。
木崎とは、亜湖のことだ。
木崎亜湖――彼女とは高校で知り合い、同じクラス歴、友だち歴共に2年目に突入している。
勉強は上の上、運動神経も抜群で、2年生ながらテニス部シングルスの華、あの毒舌っぷりさえ除けば、非の打ち所のない優等生だ。
それよりも。
今までは昨日の延長みたいな空気だったのに、百井くんってば、いきなりどうしちゃったんだろう。
それに、なんで亜湖の肩を持つようなこと……。


