そう言いながら百井くんの近くまで行くと、開いた窓からサワサワとした春の風が入ってきた。
窓の近くまで行かなければ感じられないくらいの微風に乗って、百井くんから昨日と同じ桃の香りがふわりと香り、わたしの鼻をかすめた。
名字が〝百ノ瀬〟だから桃が好きとか単純、と思われるかもしれないけれど、わたしは小さいころから桃ならなんでも好きだったりする。
食べるのも、花を見るのも、香りも、小物や文房具、色も桃の色の淡いピンクが一番好きだ。
「百井くんも桃が好きなの?」
脈絡のない質問だったかなと思いつつも、百井くんも同じなのかもしれないと思うと聞かずにはいられなくなり、気づくとわたしは、焼きそばパンの残りにかぶりつく彼に聞いていた。
すると百井くんは、質問の意図にピンときたらしく、自分の制服の匂いを嗅ぎながら答える。
「オレんち、美容室。店の匂いだろ、たぶん」
「へぇ、百井くんちは美容室かぁ。そういえば美容師さんって手先の動きが繊細だもんね、だから百井くんもあんなに繊細な絵が……」
「だからあれはオレんじゃない」
けれど、なるほどなぁと感心して言ったつもりが、被せ気味にまた否定されてしまった。


