「……ニナ」
「へへ、来ちゃった」
「アホが」
幸いにも、百井くんはいつものようにヘッドホンをしてはいなかった。
ただ、わたしの小学生っぽい登場の仕方に少し目を丸くし、そしてちょっぴり表情を緩める。
……うん。やっぱり、こっちの百井くんのほうがいいや。
教室にいるときのようなトゲトゲした雰囲気もないし、昨日のことは嘘じゃなかったんだと思える。
「今朝は無視してくれてありがとね」
なんだかおかしなお礼の言い方だなと思いつつも、美術室の中に入りながら言う。
百井くんは、購買のビニール袋を床に投げ、片手に焼きそばパン、もう片方の手に牛乳パックを持った格好で窓の枠に器用に座っていた。
腰掛けられるくらいに幅がある窓枠は、けれど長身の百井くんには少し尺が足りないようで、足が窮屈そうに鋭角の三角形を作っている。
「ああ、べつに」
「亜湖にも言われたの、クラスで浮くよって。百井くんもそれを心配してくれたんでしょ?」
「機嫌悪かっただけ」
「へへ。じゃあ、そういうことにしておく。でも、わたしはクラスのみんなのほうが間違ってると思う。百井くん、優しいもん」


