今朝忠告されたばかりだし、さすがに百井くんのところに行くとは思わないだろう。
そう思って席を立つ。
「……どこにいるのか知らないけど、行くなら誰にも見つからないように行きなよ?」
「へ?」
「それから、池のんにも報告を忘れないこと」
けれど、クイクイと手で示してわたしを呼んだ彼女は、諦めとも呆れとも言えない微妙な顔をしたかと思うと、わたしの耳元でそう囁いた。
さすがは亜湖。
百井くんを探しに行く口実に池のんを使ったのがバレバレだったらしい……。
だけど、ちゃんと送り出してくれる心の広さに亜湖の友情の深さを改めて感じて、笑顔でうなずくと、わたしは旧校舎に走った。
昨日はやたらと怖かった旧校舎も、今の時間だと怖さは少しも感じない。
それよりも早く百井くんに会って話がしたいと、そのはやる気持ちばかりが、まったくひと気のない廊下を走るわたしの足を自然に早める。
やや息を切らしながら美術室の前に着くと、少しだけ戸が開いていた。
やっぱり、ここに来てたんだ……。
予想だったものが確信に変わり嬉しくなって、つい「百井くんみーっけ!」と大きな声とともに戸を開けてしまった自分が、小学生みたいで恥ずかしい。


