「……絵、壊してたんだ……」

「そう。オレなら〝むしゃくしゃしたから〟って理由で周りを納得させられるけど、先輩は理由を言えない。先輩はずっと持田への気持ちを隠してたから、本当のことなんて口が裂けても言えるわけがなかったんだ。……それに、そんな、みんなが不幸になるような残酷な結末は、どんなことをしても避けたいと思うのは当たり前だろ。だってオレは、いくら真面目になったって、前にケンカばっかりやってた頃があったことは消せないし変わらないから。オレがやったことにすれば、全部丸く収まると思ったんだよ」

「……そっか。うん」

「実際、それで丸く収まったし、先輩のことも守れた。美術部のみんなにはますます嫌われたけど、その頃のオレには先輩が一番大事だったから。ニナに好きだって言っといて変な言い方だけど、あのときのことに後悔はない」

「うん、わかった」


ここまできっぱり言われると、逆にすとんと胸に落ちるのはなんでなんだろう。

実結先輩のしたことはもちろん許されることではないし、いきなり絵を壊された部員の気持ちの行き場所は、きっと今もどこにもないんだと思う。