それなのに、百井くんの言い方だと、そのときより前からわたしのことが好きだったことになる。
実結先輩はいったいなにに涙していたのか。
どうして百井くんは、先輩が出ていったあとも、つらそうにしながらも絵筆を動かす手を止めなかったのか。
そのことだけが今、どうしても気になって仕方がない。
「……あのときもべつに、さっきみたいに先輩を説得してただけだ」
すると、百井くんが渋々といった様子で口を開いた。
「いい加減、持田に素直に気持ちを伝えたらどうですかって。オレはもう先輩のことを見ていられないからって、そう言ってた。……ニナに言われる前にオレなりにケリをつけようとしてたんだよ。自分の気持ちをもう誤魔化しきれなかったし、先輩もなかなか思うようにコンクールの準備が進まなくて完全に落ちてたし」
「……そ、それだけ?」
「それだけってことはねーよ。先輩、去年の今頃もそうだったんだけど、持田がほかの部員ばっかり気にかけて、先輩には『この調子で頑張れ』ってだけしか言わないことにすごく傷ついて、自暴自棄になったことがあった。見つけたのがたまたまオレだったからよかったけど、持田やほかの部員だったら、先輩が今まで積み上げてきたもの全部が無駄になるところだったんだ」


