さっきは、ヤンキーならヤンキーらしく筋トレを、なんて言ったけれど、百井くんはもうだいぶわたしをおんぶしているわけで、またおんぶで家まで送ってくれるとなると、普通に体力満点の男の子ということになる。
心にもないことを言った罰だろうか。実はそれほどヤンキーとも思っていないのに、それらを取り下げる言葉が思いつかなくて、でも、喉まで出かかっている「ごめん」が出てこないのが、歯がゆくてもどかしい……。
さすがに夜は空気が冷たい。
貸してもらっているとはいえ、ワイシャツ一枚で外を歩いて百井くんは寒くないだろうか。
そう思ったら体が勝手に百井くんにひっついた。
普段、こんなに近くで男の子の匂いを感じることはないから気づかなかったけれど、百井くんからは、彼の名字と同じ桃の香りがふわりと香って、なんだかとても安心する。
「ニナ、あっちってどっち」
「……ああ、うん、駅の近くの写真館まで」
質問にもワンテンポ遅れて答えちゃったりして、わたし、一体どうしたんだろう。
あのスケッチブックの持ち主は自分じゃないと百井くんは否定していたけれど、十中八九彼のもので間違いはないのに、なんか変なの……。


