「ニナだけだったんだ、オレを怖がらなかったのは。先輩とは中学の頃からのつき合いだし、先輩もニナみたいに最初からオレを怖がらない人だったけど、ニナと先輩とじゃ、やっぱり違うんだ。言葉ではうまく説明できないけど、オレの感覚が違うってはっきり言ってる」
「……」
「大口を叩くくせに危なっかしいし、口も悪い。怖がりだし、本当は写真が好きなくせに撮ろうとしない、あまのじゃくなところもある。桃が好きで、たいしたものじゃないのに、やるとびっくりするほど喜ぶし、クラスのことでも、オレなんかのために真剣に悩んだり文句を言いに行こうとしてくれたり。オレ、ニナのそういう大げさなくらいの一喜一憂に、ずっと救われてた。……そんなヤツがいつも目の前にいたら、好きにならないほうがおかしいだろ」
「……そ、それって……?」
「認めたくねーけど、ニナが好きだ。先輩の絵が描けなくなりはじめたとき、試しにニナの絵を描いてみたら、笑っちまうくらいスラスラ描けた。そんとき、これはもう認めるしかねーなって観念したわ……」
「うそ……」
「こんなときにうそなんかついて、どうすんだ。バカか」
さらに赤みを増した百井くんの顔は、よく見ると、もう耳まで真っ赤だった。


