初恋パレット。~キミとわたしの恋の色~

 
ひとつ頷いて退室を促した百井くんに、実結先輩はそう言ってほんの少しだけ笑い、彼に手に持っていたキャンバスを預けて美術室を出ていった。

わたしたちの横を通り過ぎるときにちらりと見えた先輩の横顔は、憑き物が取れたようなスッキリとした横顔で。

ふわりと舞ったのは、絵の具の匂いだった。


その匂いを鼻の奥に感じながら、ああ、先輩は根っからの絵描きなんだな、と思う。

先生が好きだから絵を続けていたんじゃなくて、先輩自身が絵を描くのが大好きだから、どんなに苦しい恋でも、けして美術部から離れることはなかったんだろう。


背後で戸の閉まる音がして、木の床がキィキィと鳴る音も徐々に遠ざかっていく。

ここに残っているのは百井くんと、いまだ彼のブレザーの裾から手を離せないままでいるわたしの、ふたりきり。

ろうそくの炎が静かに揺らめいて、わたしたちの影が美術室の壁に大きく投影されている。


実結先輩の足音が完全に聞こえなくなると、百井くんがおもむろに手を離し、こちらを向いた。

おずおずと顔を上げれば、わたしよりずいぶん高い位置にある百井くんの瞳と視線がかち合う。