本当になんなんだ、いったい。
こっちは決死の思いで絵を守ろうと飛び込んでいったというのに、百井くんの体の脇からキャンバスの絵を覗こうとしても、それに気づいた彼につないでいないほうの手で頭を押さえつけられてちっとも見えやしないし、さっきまであれほど壊そうと振り回していたのに、実結先輩もわたしに見せまいと隠しちゃうし……。
ふたりだけわかっていて、なんだかずるい。
「百井くんっ」
頭を押さえつけている手を振り払い、たまらず非難の声を上げると、またちらりとこちらに視線をよこした百井くんは、またすぐに実結先輩に顔を戻す。
まるで焦らされているようだった、その視線の動かし方に、こんなときなのに胸が鳴ってしまうのが悔しい。
「じゃあ、そういうことで」
「うん。さっき私が言ったことは全部うそだから。ナツくんが言ったとおり、完全にモモちゃんに八つ当たりしてたのと、モモちゃんのおかげで変わったナツくんに対する嫉妬。ちょっと思ってもないことを言ってみたくなっただけなの。なにも変わろうとしなかったのは自分なのに、それを正当化しようとしてごめん。……こうなったら、みっともなく足掻いてみるよ。断られるのは目に見えてるけど、フラれたらフラれたで殴りたいし、その逆だったらもっともっと殴ってやりたくなっちゃうし、ほんと、どうしたらいいんだろ、この気持ち」


