初恋パレット。~キミとわたしの恋の色~

 
夏休み中に一緒にかしの木公園にスケッチに行ったときも、百井くんは実結先輩からの呼び出しにすぐに駆け出していった。

それくらい好きなのに。

それくらい好きだったのに。

……百井くんは、本当にそれでいいの?


「ニナが気づかせてくれたんだ。自分でも気づいていなかった、オレの本当の気持ちに」


すると、そんなわたしの疑問を感じ取ったのか、ちらりとこちらを振り向いた百井くんが唇に緩く弧を描いた。

「え?」と聞き返すと、けれど彼はわたしの手を握る手にわずかに力を込めただけで、それ以上は答えるつもりはないらしく、再び実結先輩に顔を向けてしまった。

なんなんだろうと思っていれば、ふと手に持っていたキャンバスに目を落とした先輩も、


「先生の結婚式のビデオレターに出てほしいって頼みに来たときに、もしかしたら、って予感はあったんだよね」


なんて言う。

そしてふたりは、そのまま「そういうことなんで」「そういうことになるだろうね」と妙に納得した様子で含みのある会話をしながら、キャンバスを眺めて目を細める。