けれど先輩の気持ちの高ぶりを静めるまでには至らず、キャンバスは、いまだ振り上げられたままだ。
それもそうだろうと思う。
だって、先輩はきっと1年生の頃から先生が好きだ。
1年遅れで入学してきた百井くんがすぐに気づいたくらいだもの、先生を相手に足掛け3年の片想い――。
誰に言われなくても、先輩が一番、持田先生の人柄を知っているだろうし、先生を好きになってしまったどうしようもなさも、きっと痛いくらいにわかっている。
それは、たとえ百井くんでも口出しをしてはいけない、実結先輩だけの柔らかく繊細な部分だ。
それでも百井くんは怯むことも臆することもなく、いっそ殴られてもいいと覚悟を決めているかのように微動だにせず、穏やかな口調も崩さない。
「お願いですから、目を覚ましてください。卒業したら持田にはもう二度と会えなくなるかもしれないんですよ。持田にも転勤の話があるかもしれないし、そうしたら、先輩の恋は本当にどこにも行き場がなくなってしまいます。もし売った恩を利用できるなら、オレは先輩に今すぐ持田に気持ちを伝えて楽になってもらいたいです」


