「……」
「またニナの受け売りですけど、誰が誰を好きかなんて関係ないと思いませんか。気持ちを伝えられる相手がいるってだけで奇跡なんだってオレも思います。だって持田は、誰の気持ちも無下に扱ったりしない、いい先生じゃないですか。悩んでるときはさりげなく話を聞いてくれたり、行き詰まってるときは『肩に力入りすぎてるぞー』とか言ってリラックスさせてくれたり。そういうの、先輩こそわかってるんじゃないんですか? だから好きになったんじゃないんですか? 先輩が今しなきゃいけないことは、ニナに八つ当たりすることじゃなく、持田に気持ちを伝えに行くことのはずです」
「なによ、わかったふうなことばっかり!」
「わかりますよ。何年、先輩のことを見てきたと思ってるんですか。先輩を追いかけて同じ高校に入ったときに気づきましたよ。美術部に入ってからだって、持田の人柄を知っていくにつれて、悔しいけど、本当にいい先生だなって思いました。あんな先生、オレにとっても初めてです。先輩が好きになるのも無理はないって思ったんです」
キャンバスを振り上げ、今度は説得を試みる百井くんに怒りの矛先を向けた実結先輩を、彼は今までに聞いたことのないような穏やかな口調でなだめる。


