「それだけはダメ――っ‼」
居ても立ってもいられず、美術室の中に飛び込み、今にもキャンバスを床に降り下ろそうとしている実結先輩の両手を必死の思いで掴む。
「先輩やめてください!」というわたしの声と、「ニナ!?」と百井くんが驚く声と、先輩の「いいから放してっ!」という声とがほぼ同時に重なって、わたしたちがもみ合う風圧でよりいっそう炎が揺らめきを大きくする。
実結先輩に力任せに手を振り払われそうになり、わたしの体が左右に大きくぶれる。
そんなわたしたちの間に入って、百井くんがそれぞれの腕を一本ずつ両手で掴んでなんとか落ち着かせようとする。
それでも実結先輩は力の限りにキャンバスを持ったまま腕を振り回し続け、とうとうその角が、わたしの手の甲と百井くんの右頬をビッと立て続けに傷つけた。
その痛みから、百井くんと同時に先輩から手を離してしまうと、先輩は肩で大きく息をしながら、目に涙をたくさん溜めてわたしたちをきつく睨む。
「ナツくんから聞いてるよ、モモちゃん。モモちゃんはナツくんが絵を描きはじめるきっかけを作ったヒーローで恩人なんでしょ? いつもクラスで孤立してたナツくんに、みんなと打ち解けたかったら頑張れって背中を押したのもモモちゃんだって聞いた。それに、私のことも励ましてるんだってナツくんから聞いて知ってる。でもね--」


