……ああ、先輩がわざわざ確認するまでもなく、これはわたしのことだ。
実結先輩をどうこうしようだなんていう気持ちは最初からなくて、こうして先輩と対峙している中でも、百井くんはわたしのことを考えてくれていたんだ……。
さすがにビービーは泣かないけど、と心で悪態をつきながら、嬉しさで込み上げてくる涙を指先で拭い、すん、と小さく鼻をすする。
もう百井くんの答えなんてどっちでもいいや。
こんな緊迫した場面で先輩よりわたしのことを考えてくれていたことだけで、なんだかもう、胸がいっぱいすぎて苦しい。
「……行かせない」
けれどそこで、実結先輩の声に怒気が孕んだ。
「え?」と百井くんの驚く声が聞こえたかどうかという一瞬の間にガタンッとなにかが倒れた音が美術室の中からけたたましく響き、次いで。
「……こんなものっ!」
なにかを乱暴に掴み、腕を振り上げた実結先輩の人影が、ろうそくの炎の奥にゆらゆらと揺らめく。
壊そうとしているのは明白だった。
そして、考えられることといったら、さっきようやく最後の仕上げが終わったばかりの百井くんの絵しかない。


