ただ、ちょっと言葉が過ぎちゃっただけで、本当は……本当は……。
「じゃあ先輩は、オレが今ここで先輩をオレのものにしたら、先生のことを忘れてくれますか? 先輩は、売った恩を利用すればいいって言いました。そういう利用の仕方は今まで考えたこともなかったけど、よく考えてみたら一理ありますし、オレも男なんで。ずっと好きだった人にそこまで言われたら、据え膳は食わなきゃなりません」
するとそこで、百井くんの声が静かに響いた。
先輩がはっと息を呑む音も聞こえてくるようで、わたしも戸の外側で固唾を飲み、息を殺す。
「そ、れは……」
「でも、それだけです」
先輩の言い淀む声に被せるように、再び百井くんの声が響く。
「オレが今、こんなことを言えているのは、先輩に本当にその気がないからということと、急いで会いに行かなきゃなんないヤツがいるからです。ソイツ、暗いのがほんっとダメで。だから、完成したその絵を持って『これがオレの答えだ』って早く言ってやんなきゃいけないんです」
「……モモちゃんの……こと?」
「はい。もう少しで完成だったんですけど、学祭の準備が忙しくて。さっき、ようやく最後の仕上げが終わったばかりなんです。これ以上待たせるとビービー泣きそうなんで、もうこのくらいで行かせてもらえませんか」


