「……なによ。わたし、急いでるんですけど」
ちょっとだけ振り返って百井くんの呼び止めに応えると、勢いよくガタンと椅子を倒した音とは裏腹に、その後、しんと静まり返った美術室に弱々しい声が落とされる。
「……ニナ、オレが好きなの?」
「そうだよ」
「オレ、先輩が好きだって前に言った」
「知ってる。頭のてっぺんに落ちてきたスケッチブックを開いたときから、もう知ってる」
「……それでも好きなの?」
「だからそうだって言ってるじゃん」
「マジか……」
「マジだよ。大マジだよ」
ひとつひとつ告白をなぞるように確認されて、さすがにわたしも居たたまれない気持ちになり、特に乱れてもいないのにモゾモゾとスカートの位置を整える。
でも、ここで引いたら終わりだと思い直し、恥ずかしさに耐え忍んで、わたしもひとつひとつ認めていく。
誰が誰を好きか全部わかって気持ちを伝えたんだ。
お世辞にも可愛い告白とは言えないものだったけれど、不思議と今はすっきりしていて、後悔もない。
むしろ、わたしらしい告白じゃん、とちょっと誇らしい気分だ。
「……わかった」


