すると、調子に乗ったのもつかの間、一瞬にして百井くんのまとう雰囲気が様変わりした。
もしかして地雷踏んじゃった系ですか⁉ とんだ復讐しちゃったよ‼と、わたしはひとり、百井くんの背中でうろたえる。
と――カチャン。
木の廊下に乾いた金属音が響いた。
どうやら百井くんもうろたえているらしい。
落としたのはきっと、新任の先生を脅して手に入れた、この美術室の鍵だろう。
「あ。鍵が」
「あれ、オレんじゃない」
「ね、拾わないの?」
「オレんじゃねーし」
……うん、じゃあそういうことにしよう。
とにもかくにも、わたしは今すぐ帰りたい。
百井くんの逆鱗に触れてしまったからという理由ではなく、おぶってもらっているくせになにを言うと自分でも思うけれど、単に放課後の旧校舎は怖いからだ。
夕方と夜の境目というか、どちらにも属さない中途半端なこの時間帯が、わたしは特に怖い。
旧校舎は、いわゆる木造建築様式の建物だ。
わたしたちの年代だと、閉校になった学校を地域の皆さんの新たな活用の場として開放している的な、そういうイメージが強いだろうか。


