詳しく話すつもりはないんだろう、ただ、なんとも言えない険しい顔をしてそれだけを言った彼は、わたしの返事なんて待つことなく急いだ様子で踵を返してしまって。
半ば呆然としながらその姿を追っていれば、スケッチブックも鉛筆も乱暴に片付けて通学鞄を肩にかけ、公園の出入り口に向かって走り出す背中が目に入る。
「……、……ッ」
唇を痛いくらいに噛みしめ、これ以上駆けていく百井くんが視界に入らないように自分のローファーのつま先に目を落とした。
百井くんはただ〝先輩〟としか言わなかったけれど、あの慌てぶりや緊迫した様子を見ると、わたしにはどうしたって実結先輩しか浮かばなくて。
やっぱりわたしは、百井くんを想っていちゃ、いけないのかな……。
さっきまでは〝どうしようもないんだから〟なんて前向きに向き合えていた片想いも、ほんの少しの出来事で、こんなにも簡単に後ろ向きになってしまう。
百井くんは実結先輩が好きなんだから、駆けつけるのなんて当たり前で。
友だちとしか思われていないわたしには、そんな彼を引き留める権利なんてない。
なのに。
「行っちゃやだよ……」


