当然、写真を撮られたことに気づくはずもない百井くんは、それからも夢中でスケッチを続ける。

構図のバランスを取っているのか、鉛筆を縦に持って腕をピンと伸ばしてみたり、かと思えばスケッチブックに目を落としたり。

本当にいつまでも見つめていられるくらいに飽きなくて、わたしはしばらく、そのまま立ち止まってしまっていた。


そんなとき、ふいに百井くんが鉛筆を持つ手を止めた。

どうしたのかと思い、そのまま見つめていると、ズボンのポケットから何かを取り出し、急いだ様子で耳に当てる。

ああ、電話か。

画面に表示された名前を見てすぐに通話を始めたのを見ると、百井くんにとって近しい人――例えば、スレンダーでミセス雑誌の表紙を飾れそうなくらいお美しい美容師のお母さんからの電話かもしれない。

けれど、通話を終え、きょろきょろと辺りを見回しはじめた百井くんに、どういうわけか胸がざわついた。


「――悪い。先輩から呼び出しが入った」


案の定、わたしの姿を見つけて急いで駆け寄ってきた百井くんから発せられたのは、その一言だった。