「あー、であるからして――」


やたらとその台詞が多い古文のベテラン教師のお経のような授業を受けながら、なにもそこまでしてわたしに気を使ってくれなくてもいいのに、と隣の百井くんを盗み見て思う。

夏期講習にも真面目に出席する百井くんは、けれどまだクラスのみんなからは〝極恐ヤンキー〟として恐れられていて、話しかける人もいなければ、彼の周りはいつも歩きやすそうに人がはける。

以前『クラスで浮きたくなかったら』と百井くんと関わるわたしに渋い顔で釘を刺した亜湖と、今も普通にそんな彼と関わりを持ち続けているわたしを除けば、百井くんに対するイメージは新学期が始まった頃となにひとつ変わってはいなくて……。

百井くんへのそのイメージをいい方向に覆させられるような、なにかとんでもなくインパクトがあって、かつ百井くんがヒーローになれるようなことはないかなと。

教室でのわたしは、ここのところ、いつもそれを模索している。


でも、教室では一切関わり合いを持たないわたしも、ヤンキーのイメージをいまだ先行させているクラスメイトたちと同じだ。