またメシ食いに来い、なんていう嬉しい誘いをもらったわたしは、じゃあ、と踵を返して帰っていく彼の背中が見えなくなるまで道端で見送っていた。

当たり前だけど、実結先輩という想い人がいる百井くんは、わたしを家まで送ってくれても、振り返ることはない。

夕暮れのオレンジ色がそうさせるのか、アスファルトに伸びた長い影がそうさせるのか。

はたまた、巣へ帰る鳥の鳴き声や、カナカナと鳴くセミの声がそうさせるのか。


「……好きだったよ、百井くん」


このときばかりは、どうしようもなく胸が苦しくなって、もう見えないはずの百井くんに〝だった〟という過去形の告白をせずにはいられなかった。

自分が傷つきたくないから諦めることにした、百井くんへの想い。

友だちというポジションに居心地の良さを見いだして完結させた、この恋。


「……ごめん、百井くん。やっぱ好きだよ」


だけど、負け犬で逃げ腰で、百井くんが先輩を想う気持ちには到底及ばないのはわかっているけど、無理やり気持ちを押し込めたところで、こんなにも簡単に溢れ出してしまう。