ガラガラと木製の引き戸を開けると、そこには立てかけたイーゼルの前の丸椅子に座って絵筆を握る百井くんがいた。
開口一番、相変わらずデリカシーのないことをサラリと口にする彼は、久しぶりに会っても彼のままだ。
その平坦な口調も、疑問符抜きの質問の仕方も、すでに絵の具で汚れたエプロンを身に着け絵を描きはじめているところも、夏休み前と全然変わらない。
「なっ。被写体探して外に出歩いてるから、これでも現状維持だよ! てか、そう言う百井くんこそ、相変わらず白いよ? 遊びに行ったりとかしてないの?」
「遊ぶ暇があるなら絵」
「ぶはっ、だと思ってた。一緒に遊びに行く友だちもいないしね」
そしてわたしも、夏休み前と変わらない。
デリカシーに欠ける発言にはこちらもそれ相応の発言で返すところなんか、どう見たってちゃんと失恋を受け入れられていると思う。
……正直に言うと、少し心配だったんだ。
教室では一匹狼な百井くんとは話さないし、目も合わせることもしないから、特にこれといって支障はなかったけれど、ここではどうなるかわからない、って。


